がんばるせろな(仮)

夫のバルセロナ留学についてきた30代。コロナ禍のスペインをじたばた生きてます

「いいよいいよ」は良いのか悪いのか

 スペイン語No hace falta... (ノー・アセ・ファルタ)という表現がある。「~は必要ない、足りている」という意味だが、それだけの意味ではない。

 かなり前、スペイン人の友達に「今度遠出するから何かお土産買ってくるよ。希望はある?」とテキストメッセージで聞いたときのこと。"No hace falta!"と返事が返ってきた。初めてみる表現だったので辞書を引くと「不要だ」という意味だった。こちらの人は自分の意見をストレートに言うものだと思っていたこともあり「そっか、いらないのか…」とションボリしつつ引き下がった。

 それから数か月たち、今度は別のスペイン人の友人と話していて、"no hace falta"という表現の話題が出た。日本語が超堪能な彼によると、「遠回しに『ありがとう』って言っている場合もあるんだよ。日本チックな言い方でしょう」とのこと。

 サプライズプレゼントをもらったときなどに言うそうで、この場合のニュアンスは「(私のためなんかにお金や時間や労力をかけなくても)いいのに!」みたいな感じだろうか。超衝撃。本音と建前、スペインにもあるんじゃないの!

 私のケースは「そんなお気遣いいらないよ(でもありがとね)」と言っていた可能性があるのか。かなり恥ずかしい思い違いをしてしまったかもしれないのか!うああ。

 

 たしかに怪しいとは思っていた。スペイン語の恩師たちにちょっとしたお土産を渡した時にも¡No hace falta!的なことを言われたが、本気で断るそぶりもなく即包みを開けにかかっていたから。そして次の瞬間「気に入ったありがとう!」って中身見る前に食い気味に言っていたから。そうか、これは礼儀だったんだ。正直すまんかった。

 

 更に別の知人にも聞いてみた。やはり「いらん(いらん)」と「いいのに~(でもありがとう~)」の2パターンがあり得て、その人との関係や声のトーン、表情で判断するそうだ。テキストメッセージのやり取りだったら絵文字で判別するとのこと。ちなみに私のケースでは絵文字がついていなかったので、不運な事故だったと思いたい。

 このニュアンスをほかの言語に訳すのは難しいそうで、おそらくスペイン語的な表現なのだろう。こういう「ほかの言語にしがたい」とネイティブが言う表現は大事にしたい。

 というわけで「いらん」「いいのに」の両方になりえるような仮訳として「いいよいいよ」的な表現だと理解することにした。そして必ず表情で判断しなければと心に刻んだ。

2023/4/15追記:

 プレゼントをもらう前は現在形のNo hace falta.で「いいよ、いらないよ!(でもありがとう!)」と表現するのだけど、すでに目の前にプレゼントを差し出されている場合など「いらんのに」と言ってももう遅いような場合には線過去形でNo hacía falta.を使うようだ。

 たとえば、ポケモン最新作SVの開始数分でこんなシーンがある。主人公が転入する学園の校長が、なんとわざわざ自宅を訪ねてくる。その時のママのセリフ。

 no hacía falta que se molestaseと言っている。se molestaseはmolestarseの接続法過去形。この表情からすると、「お骨折りいただかなくてもよかったのに」「わざわざすみません」といった感じになるのかな?この状況だと、もう来てしまっている人に現在形で「来なくていいんですよ」というよりは、過去形「来なくてよかったんですよ」の方がしっくりくる気はする。

 それから、善意に対して何回No hace faltaを言うかは人によるという話も聞いた。難易度が高すぎるけど、その分うまく使えたらかっこよさそう。

 この後のポケモンSVのストーリーでも嫌というほど色んなhace faltaが使われるので、すごく大事な表現なのだということを身につまされた。(ここまで追記)

 

 と、これを書き終えかけたタイミングで友人から「小旅行から帰ってきたから今度お土産渡すね」と連絡が。その旨夫に伝えると「え、受け取れないよ」との返事。じゃあ断るの?と聞いたら「いやありがたく頂くけど…」と曰う。君もノー・アセ・ファルタ族か。状況がピッタリすぎて笑うしかない。

 次からどんどん使って、この経験の元をとりたい。